サステナブルピープル Vol.5
井筒屋グループは、企業の社会的責任を果たすべく、事業活動を通じてさまざまな社会課題の解決に貢献し、人々の豊かな未来と持続可能な(サステナブル)社会の実現を目指してまいります。本企画では、人と地域をつなぎ、豊かな未来を創造していくために、さまざまな業界のフロントランナーたちのお話を伺います。
1976年、北九州市生まれ。専修大学経営学部経営学科卒業。2000年シャボン玉石けんに入社。入社後は関東エリアの卸店、百貨店、スーパー、ドラッグストアなどへの営業、石けん系消化剤の研究開発にも携わる。取締役副社長を経て、2007年より代表取締役社長。無添加石けんを通じ、環境問題啓発の講演活動も積極的に行なっている。
第5回目にご登場いただくのは、北九州市民なら誰でも知っている企業「シャボン玉石けん」の三代目、代表取締役社長・森田隼人さんです。世の中に「無添加」という言葉すら浸透していなかった1974年、当時製造・販売していた合成洗剤を無添加石けんに切り替え、厳しい経営環境にありながらも、無添加石けんを作り続けた先代の思いを継承。昔ながらの製法にこだわりながら、品質を維持するために新しい技術や仕組みを導入。世の中に「無添加石けん」の魅力を広めるために邁進しています。
・・・まずは「無添加」に切り替えたきっかけを教えてください。
会社は1910年に北九州市若松区で創業し、合成洗剤を主力商品として扱っていました。1971年に国鉄門司鉄道管理局(現在のJ R)から「機関車を洗うための、無添加の粉石けんを作ってほしい」というオーダーが入りました。合成洗剤で洗うと、サビが早く出てしまうというのが理由でした。
形になった無添加石けんを、先代社長の森田光德が自宅で使用したところ、長年悩んできた体の湿疹が嘘のようにきれいになったのです。しかし自社の合成洗剤に戻すと、また湿疹が出てしまう。こうした実体験から『体に悪いと分かったものを売るわけにはいかない』という信念のもと、1974年に無添加石けんの製造・販売に切り替えました。当時は『無添加』という言葉すら浸透していなかったため、売り上げは100分の1以下、100人いた従業員は5人まで減り、会社は17年間も赤字が続きました。90年代に入ると環境意識の高まりを受け、今では多くの方たちに商品を届けられるようになりましたが、そこに至るまでは多くの苦労がありました。
井筒屋では小倉店本館6階〈進物サロン〉、新館4階〈エクラナチュレ〉で販売しています。
・・・どんなに苦しくても「無添加石けん」を作り続けた先代の強い思いに感銘を受けました。
ありがとうございます。経営が厳しい中でも信念を貫き、「無添加石けん」の製造を辞めなかったのは、「赤ちゃんのおむつかぶれが治った」「自分自身の肌荒れが良くなった」など、お客様から数多く届く“感謝の声(お便り)”に支えられたことが大きな要因です。弊社のお客様の中には、長年使い続けていただいている方が多く、もしかしたら社員よりも詳しいのでは?というコアなファンもいらっしゃいます(笑)。我が社の低迷期を支えてくださったお客様の信頼を裏切ってはいけない、という使命感は今も強くあります。
現在は自社で通信販売を行なっているので、お手紙だけでなく、インターネットを通じてお客様の声が届きます。新商品の開発や既存製品のマイナーチェンジ、ブラッシュアップなどにおいて、お客様のご意見・ご要望から生まれるものは多いです。
最初は粉末の洗濯石けんから始まり、現在は洗濯、浴用、歯磨き、台所用、など用途や種類も拡大。現在は100以上の商品を製造しています。その全ラインナップで“無添加”を貫いて製造しているのは、メーカーならではの強みです。
・・・時代に合わせて、AIやIoT技術を活用した「スマートファクトリー」を推進していると伺いました。
2021年に推進チームを立ち上げました。デジタルデータと解析に基づき、業務管理を行う工場(=スマートファクトリー)への革新を進めています。大きな利点は、業務の効率化と安全面の強化です。特に品質チェックに関しては、人間の力では全てをカバーできません。また、採用においても学生からの注目度が増していると感じています。
ただ、新しい技術や仕組みを取り入れても、石けんの作り方を変えるつもりはありません。石けんは、通常4〜5時間あれば出来るものもありますが、私たちは昔ながらの“釜炊き製法”で、職人の手によって丁寧に1週間から10日間かけて作っています。我々には「釜炊き10年」という言葉があって、イメージとしては酒造りみたいなものですが、大きな釜でぐつぐつ炊きながら、その日の気候や油の状態で微調整を加えます。職人が目で見て、匂いを嗅ぎ、舐めて出来上がりを確かめます。これは天然油脂を原料とし、香料、着色料、防腐剤、合成界面活性剤、蛍光増白剤を使用していないからこその見極め方です。
・・・強い信念のもと、作り続けてきた「無添加石けん」が今年50周年を迎えました。
おかげさまで無添加石けんの輪が広がり、よりお客さまのニーズに応えていくために若松本社工場の拡張を決め、今年6月には本社機能の一部を小倉北区の商業施設内に移転しました。また50周年を記念して、我々がなぜ50年間こうした事業に取り組んできたのか、ということを改めて深く知っていただきたいと考え、「ブランドブック」を作成しました。
こちらからご覧いただけます↓
https://shabon-anniversary.com/
その他には、主力商品である「浴用石けん3個入り」のパッケージを50周年訴求デザインにしたり、友の会の会員限定ですが、全国各地から抽選で50名の方を工場見学にご招待したり。2024年12月1日(日)には、特別講演会「食と農と環境と」をJ R九州ホールで行います。申し込みが必要ですが無料で参加できますし、当日はオンライン配信も行います。興味のある方はぜひご覧ください。
こちらからご覧いただけます↓
https://www.shabon.com/shop/news/20241011
・・・近年はSDGsなどの言葉が広く浸透し、環境問題への注目も高まっていると感じますが、森田社長は今の状況をどのように捉えていますか?
以前に比べ、環境への意識は当然高まっていると思います。ですが、お客様が「環境問題を基準にしてものを買うか」というと、まだその域には達していないとも感じています。とはいえ、安心安全を求める声は年々強くなっておりまして、当社の商品も少しずつ全国で受け入れられているなと感じています。こうした「安心安全を求める声」や「環境への意識」は今後逆行することはないと思いますので、皆さんの購買動機に「環境」という選択肢がもっと増えれば、当社のチャンスはさらに広がると考えています。
これは当社の今後の目標でもあるのですが、「石けん」と「合成洗剤」の違いをもっと多くの方に知ってもらいたいと思っています。皆さん「なんとなく違うんだろうな」という認識はお持ちだと思うのですが、実は全く別物なのです。
実際に「自分は環境に優しいものを使っている」と思っている人が、実はそうじゃないものを使ってしまっているケースは多々あります。「子どもには安全なものを使いたい」という意志はあるのに、人工の化学物質を多く含む洗浄剤を使ってしまっているとか。そうしたミスマッチを起こさないためには、もっと世の中に「石けん」と「合成洗剤」の違いを広めないといけません。妊婦から授乳期間くらいは、シャボン玉石けんじゃなくても、石けんを使うのが当たり前な世の中にしたいですね。
・・・御社は石けんの新たな可能性を追求すべく、実験や研究なども積極的に行っているそうですね。
2001年に北九州市消防局や北九州市立大学と産学官連携で「石けん系消化剤」を開発し、現在はJICAと海外での実証実験や普及活動に取り組んでいます。2009年には「感染症対策研究センター」を、2011年には「石けんリサーチセンター」を設立しました。これからも石けんの研究に取り組み、新たな分野への応用などにも取り組んでいきます。
・・・資料を拝見しましたが、島の住民に3か月間、無添加石けん生活を送ってもらったという調査は興味深かったです。
2021年、福岡県宗像市の地島(じのしま)で、生活排水が環境や生物へ及ぼす影響について、無添加石けんを使う前後でどのような変化があるのかを調査しました。140人ほどいる島民ほとんどの方の理解を得られたので、生活全般に無添加石けんを使っていただきました。調査の結果、無添加石けんの使用に切り替えたことで下水処理場内の微生物が豊かになることや水中の有機物(汚れ)を低減させること、生態系に影響を与える可能性がある生物の排出量が減ることが分かりました。
何より嬉しかったのは、自分たちの生活や意識をちょっと変えるだけで環境は良くなる、という実体験を島民の方たちが得たことによって、環境に対する意識が高まったんです。それがとても良かったですね。
無添加石けんハミガキを使う地島小学校の子どもたち
・・・さまざまな課題に向き合い、真摯なものづくりを続ける御社の姿勢が伝わるお話はとても興味深いです。ここで少し話は変わりますが、近年はさまざまな場所で女性の活躍推進が求められています。御社の状況を教えていただけますか?
実は弊社の採用試験を受ける方は、圧倒的に女性が多いのです。ですから結果的に従業員も女性は4割強を占めていますし、女性管理職やリーダーも女性の釜炊き職人もいます。理系の研究職なども女性が半分を占めていますね。女性は地元志向が強いのかもしれませんし、石けんはジャンルでは化粧品の部類にもなりますので、そういった意味では女性の方が親和性は高いのかもしれません。
また、出産や子育てという大きなライフイベントでは産休・育休はもちろん、復帰後も時短勤務ができるようにしています。弊社の産休・育休後の職場復帰率は100%なんですよ。それから、これは社員のアイデアで生まれたのですが、会社内に先輩パパ・ママたちと情報交換や交流ができる子育て応援サークルがあります。妊娠・出産・育休後にも不安なく復帰するための大切な場所となっています。
・・・働く人たちが意見しやすい雰囲気なのですね。
もちろん内容によって意見が通る、通らないはありますが、提案しやすい環境ではあると思います。実は私は1年をかけて「社員全員と飲む」ことを毎年やっています。10人ずつくらいに分けて、月一回のペースで。部署や同期などは一切関係なく、メンバーはその都度ランダムに選ぶので、社長とのコミュニケーションだけでなく、社員同士のつながりも出来るんです。そうなると社内の風通しが良くなり、いろんなアイデアが出やすくなるかなと思っています。
先ほどお話ししましたが、弊社は長らく経営の厳しい時があり、その期間の社員がほとんど在籍していないので、社員の平均年齢は34〜35歳なんです。私も48歳とそこまで歳が離れていないので、社員は積極的にいろんな意見を提案してくれますね。
先代は周囲の反対を振り切って17年連続の赤字を乗り越えるまで無添加石けんへの初志を貫くなど、いろんな行動と決断を一人でやるカリスマ的な経営者でした。私は社員一人ひとりが活躍できる環境づくりを整え、社員とともに企業理念の実現を目指しています。
・・・今後も御社の理念である「健康な体ときれいな水を守る。」ため、社員一丸となって地道な取り組みを続けられると思いますが、森田さんにとっての「サステナブル」とは?
当社は企業活動そのものがサステナブルに繋がっていると自負しています。無添加石けんを広めること自体が、赤ちゃん、肌の弱い方、化学物質で体調を崩す方など、声をあげられない人を取り残さない持続可能な世の中に向けて貢献できることになりますから。そもそも、「サステナブル」という言葉が登場する半世紀前から、すでに取り組んでいるという自負もあります。
2018年には、合成洗剤や柔軟剤の人工的で過剰な香料が、健康被害を及ぼす「香害(こうがい)」について、全国の新聞で意見広告を掲載しました。これからも、環境問題や社会課題について、シャボン玉石けんだからこそできる取り組みを行なっていきたいと思っています。
・・・井筒屋でも長年、シャボン玉石けんの商品を取り扱っており、「いづつや饅頭」とシャボン玉石けんのキャラクター「シャボンちゃん」が過去4回コラボレーションしています。実施するたびにお客さまからの反響が大きく、ご好評いただいている企画です。今回、森田社長からさまざまなお話を伺い、これからも無添加石けんの良さを広めるお手伝いができればと、思いを強くしました。
2024年8月、無添加せっけん50年を記念しコラボ饅頭を販売。2019年、2022年、2023年6月にも実施し、その後もご要望を多くいただいていたので、4回目のコラボはお客さまに大変喜ばれました。